村越 としや
夕暮れが迫る群青の空に優しい線を描く火の粉はまるで赤い蛍だった、そして強い風が吹き抜ける瞬間にだけ炎は少し音を発て、たくさんの赤い粒を辺りに撒き散らした。赤い光の粒は群青から藍へと変わる空に次々と吸い込まれるように消えた、それらを眼で追いながら光はどこへ行ってしまうのかを考えていた。空は更に深く濃く沈んでゆき、そこから徐々に浮かび上がる小さな灯りにじっと眼を凝らした。風に飛ばされ、舞い上がり、消えてゆく、そんな火の粉を繰り返し見ているうちに日は完全に沈み、肌に寒さを感じた、そしてぼくはとても大切なものを無くしたときに覚えた寂しさと似た感情にようやく気が付いた。暗い田んぼ道に火の気はもう無い、吹く風は冷たさを増し、色の消えた空にはいくつかの星が見えた。